コーヒーは今や中国の若者にとって社交の必需品に 市場が急成長中

2024年4月1日

 ここ数年、中国の若者にとってコーヒーを飲むことは生活習慣の一部になり、「心強い社交ツール」にもなっている。若者がコーヒーを熱心に追い求める動きと呼応するように、コーヒー市場の競争もますます熱を帯びている。

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今時の若者にとってコーヒーが必需品になったのはなぜ?

 「眠気を覚ます」というのが、若者がコーヒーを選択する最初の理由だ。学生の場合は、夜遅くまで復習をし、朝は早く起きて授業に出なければならない。1杯のコーヒーは眠気を覚まし、気分をすっきりさせてくれる。働いている人の場合は、仕事を頑張るために、朝でも午後でも、眠くなったら1杯のコーヒーで身体をシャキッとさせたいだろう。コーヒーを飲むとすぐに眠気が覚めて頭がはっきりするので、コーヒーを手放せなくなった若者はますます多くなり、今やコーヒーは生活必需品となっている。ネットユーザーの中には、コーヒーのことを「生き延びるための良薬」などとユーモラスに語る人もいる。

 コーヒーは速いリズムの生活に必要というだけでなく、ゆったりとしたひと時を楽しむ方法でもある。友人と一緒にゆっくりコーヒーを飲みながら会話を楽しみ、休日のひと時を共に過ごしてもいいし、1人でカフェに座ってコーヒーを飲みながら本を読み、自分だけの静かな時間をゆっくり味わうのもいいだろう。

 また、コーヒーがもたらす雰囲気も若者を引きつける理由の1つだ。SNSを眺めればすぐにわかる通り、カフェの写真にはたいてい高級感が漂っており、アンティーク調であれインダストリアル調であれ、多くの人がカフェのインテリアが醸し出す雰囲気に引き付けられてやって来る。

コーヒーが社交の必需品に

 流行にともなって、コーヒーには社交という重要な機能も加わった。

 オフィスで働く林麗雲さんは、「ドリップコーヒー好き」という共通点に偶然気づいたことがきっかけで、職場で初めての友達ができた。所属する部署は違うものの、コーヒー豆をすすめ合ったり、一緒にコーヒーを飲んだりする間柄になった。「コーヒーが本当に好きなのはもちろんだけれど、それ以外にコーヒーは私にとって社交ツールの1つでもある」と林さん。「コーヒーを飲みに行かない?」の一言で職場に「コーヒーブレーク」の時間が生まれ、同僚との距離が急速に縮まるという。

 広東省仏山市順徳区に住む「00後(2000年代生まれ)」の黄俊煜さんは、高校生の頃に眠気覚ましのためコーヒーを飲み始めた。その後、より質の高いコーヒーを味わうために、コーヒーの種類や入れ方を研究し、カフェに行ってアルバイトをし、バリスタにもなった。大学1年生になった今は、自分の寝室にカフェコーナーを作り、バイトで貯めたお金をつぎ込んで、半自動のコーヒーマシンを購入した。こうして「水代わりにコーヒーを飲む」を実現しただけでなく、大学で同じようにコーヒーが好きな新しい友達もできた。また微信(WeChat)に立ち上げたコーヒーについて語り合うグループ「Add coffee」を通じて、同級生達に自分の入れたアメリカンコーヒーやカフェラテをふるまったり、日々の暮らしについて会話を楽しんだりしている。

急成長期に入ったコーヒー市場

 前瞻産業研究院が発表した「2020-25年中国コーヒー業界市場需要・投資計画分析報告」によると、コーヒー消費の中心は20-40歳の都市に住むホワイトカラーだ。生活リズムが速く、コーヒーが日常的な飲み物になっているため、データでは1人あたり年に326杯を飲んでいる計算になる。人々の可処分所得がさらに増えるにつれ、コーヒーを飲む頻度もさらに増加するとみられ、23年には中国人の年間平均コーヒー消費量が10.8杯になる見込みだ。

 調査会社の天眼査のデータでは、現在、中国にはコーヒー関連企業が約17万4千社あり、そのうち22年に新たに登録された企業は約3万2千社で、新規登録企業の増加ペースは23.1%に達した。ここ3年間近くの新規登録コーヒー関連企業の年間平均成長ペースは19.5%だった。

 コーヒー界のトップ企業であるスターバックスは引き続き中国市場で事業を拡大しており、発表された新戦略によると、25年に中国での総店舗数を9千店にするという。瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)も起死回生をはかり、昨年12月5日に新たな協力パートナーの募集を開始すると発表した。

 このほかにも、郵便事業を手がける中国郵政集団有限公司傘下のカフェ「郵局珈琲(POST COFFEE)」の第1号店が、福建省厦門(アモイ)市で試験営業を開始した。包子(パオズ、肉まん)で有名な天津狗不理食品股份有限公司は、100%出資子会社でカフェ事業を手がける高楽雅珈琲食品(天津)有限公司を設立。スポーツ用品大手の李寧(LI-NING)は、「寧珈琲 NING COFFEE」の商標登録を申請した。こうしたコーヒー市場の盛り上がりを受けて、老舗コーヒーチェーンが事業を拡張するだけでなく、多くの新顔が業界の枠を超えてコーヒー市場に参入している。

三線・四線都市へ広がるコーヒー市場の競争

 一線・二線都市のコーヒー市場は競争が激しく、小都市でも同じようにコーヒー市場にニーズがある。ここ2年間近く、ラッキンコーヒーとスタバが三線・四線都市へと急速に事業を拡大している。「まさか故郷の小さな県にもラッキンコーヒーがあるなんて思わなかった」、「火鍋レストランの海底撈火鍋もないような福建省の小さな県にもスタバができた」。春節(旧正月、2023年は1月22日)連休期間、こんな内容の投稿がSNS「小紅書」や微博(ウェイボー)などのプラットフォームで数多く見かけられた。投稿したのは雲南省、河北省、四川省、河南省などの県出身の若者たちだった。

 コーヒー市場の広がりをよりはっきり示すデータもある。ニュース・SNSプラットフォームの界面新聞が伝えたところによると、23年1月30日、ラッキンコーヒーは23年度初の新小売協力パートナーの募集計画を明らかにし、全国の15省(区・市)・80都市でパートナーを募集するとした。これまでの募集エリアに加え、今回は欽州、佳木斯(ジャムス)、松原、包頭、通遼、攀枝花、西双版納(シーサンパンナ)、普洱(プーアル)、三門峡など33都市が新たに加わり、その中には県の行政中心地も多く含まれていた。

 ラッキンコーヒーやスタバが三線・四線都市に事業を拡大したことで、「コーヒーがもたらす雰囲気」を楽しめるエリアが広がっただけでなく、独立系カフェの開店ラッシュも起こった。

 独立系の企鵞珈琲(ペンギンカフェ)は、SNSでカフェでの日常的な出来事や江南地域の小都市の暮らしをシェアしながら、新型コロナウイルス感染症が発生してからの3年間を乗り切っただけでなく、今では「ますます好調」だという。マスターの徐超さんは、「ここは小さな都市だが、消費や審美眼、習慣は周辺の大都市の影響を受けているため、お客様のコーヒー文化に対する理解や受け入れのレベルが高い。店を運営するコストは大都市よりかなり少なくて済む。22年のカフェの売上は予想を大幅に上回り、7-8月は5千杯を売り上げた。10-11月は閑散期だと思っていたが、売上は伸び続けた。国慶節(建国記念日、10月1日)連休の消費の伸びに支えられて、10月の売上高は10万元(約196万円)に迫った」と話した。

 一般の人々の間で「コーヒーがもたらす雰囲気」が広く受け入れられるようになったことを受けて、コーヒー消費がますます活発になっている。三線・四線都市では、これから市場に参入しようとする大手コーヒーチェーンブランドも、試行錯誤する独立系カフェも、いずれも「コーヒーがもたらす雰囲気」を醸成する存在であるとともに、コーヒー消費がもたらす利益を享受する存在でもある。