デジタル変革を起こす世界の先進工場「ライトハウス工場」

2024年4月1日

 世界経済フォーラム(WEF)は2023年1月、世界で最も先進的な工場「ライトハウス工場」の最新リストを発表した。世界から18ヶ所が選ばれ、そのうち8ヶ所は中国の工場だった。WEFがこれまでに認定した「ライトハウス工場」は世界に132ヶ所あり、そのうち中国が50ヶ所で、国別の1位となっている。

 現在、製造業の生産スタイルには大々的な変革が起きており、スマート、グリーン、サービスへと高度化することが製造業の大きな流れとなっている。

製造業がデジタル化時代に突入

 新たな科学技術革命と産業変革がグローバル産業チェーン・バリューチェーンを再構築しており、デジタルトランスフォーメーション(DX)は選択肢の1つではなく、今や必須の選択となっている。

 ビッグデータ、クラウドコンピューティング、アディティブマニュファクチャリング(AM)、産業用ロボット、人工知能(AI)、デジタルツイン、モノのインターネット(IoT)などの新技術により、工場はスマート製造部門、スマート製造ライン、スマート作業場の間で材料と情報をシームレスに伝送し、全チェーン、全プロセス、全要素、全サイクルの動的感知、相互接続、データ集積、スマート管理コントロールを実現し、工場の効率、納期、品質、ストックなどの重要指標がいずれも著しく向上した。企業の業務プロセス、管理システム、バリューチェーンの各プロセスで大量の生産要素やリソースの余裕が生まれることになり、これを独自イノベーションに用いることで、新興ビジネスモデルと破壊的ビジネスモデルの構築を可能にしている。

中国の「ライトハウス工場」はどれほどスマートか?

 「ライトハウス工場」は第4次産業革命の牽引役と見なされ、デジタルマニュファクチャリングとインダストリー4.0を代表するもので、ある程度においては、世界トップレベルの製造能力があると見なすことができる。

 スマート化された製造ラインでは、ロボットアームが休みなく動き続けて効率よく各種工程の作業を行い、「バーチャル・インダストリアルエンジニアリング(IE)エンジニア」がスマートに配置を進め、ロボットが生産のエネルギー使用状況をリアルタイムで監視する……安徽省合肥市の合肥経済技術開発区にあるハイアールのスマートコントロール・インターネット工場「コスモプラット」では、「産業用ブレーン」の指揮の下、製造プロセスが集約され、効率がよくなり、環境にやさしくなっている。

 ハイアール「コスモプラット」からそう遠くない場所に、レノボ合肥産業拠点がある。ここは世界最大のスマート計算設備研究開発・製造拠点であり、「ライトハウス工場」の1つでもある。この工場におけるスマート製造中枢部分の電子モニターには、受注、出荷、資材準備などの情報がリアルタイムで表示されるとともに、資材不足の分布状況やサプライヤーの供給実績といった情報もリアルタイムで表示される。

 福建省泉州市にある九牧集団のスマート便座の「ライトハウス工場」に足を踏み入れると、資材を満載した5G自動運転車がひっきりなしに動き回り、スマートモニターを見れば各種の生産データが一目瞭然だ。休むことなく稼働する製造ラインに従業員の姿はなく、「作業に没頭する」ロボットと時折点滅する信号灯があるだけだ。従来の生産作業場とは異なり、このスマート工場では、「社員」の半分以上がロボット。スマート便座1台を作るのにかかる時間はわずか5分で、24時間365日休み無く働くことができる。そのうえ品質合格率は99%に達し、受注から納品までの効率は25%向上した。

中国の「ライトハウス工場」の特徴は?

 「ライトハウス工場」はスマート製造業のモデルであり、パイオニアだ。では、中国の「ライトハウス工場」にはどんな共通点があるだろうか。

 上海社会科学院経済研究所の張暁娣副研究員によると、中国の「ライトハウス工場」の1つ目の共通点は、企業の規模が大きく、そして経済の先進地域に集まっていることだ。例えば、シーメンス、ハイアール、ボッシュなどの世界トップ500社や、世界製造業トップ500社に入る企業が含まれる。そのうち北京・天津・河北、長江デルタ地域、粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深セン、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門<マカオ>両特別行政区によって構成される都市圏)にある「ライトハウス工場」の数は、中国で認証された「ライトハウス工場」の60%を占める。

 2つ目の共通点は、複数のスマート化モデルが統合され、優れた成果を収め、3Dモデル、拡張現実(AR)、AIなどの技術を総合的に運用して、製品の設計、製造、状態の監視、アフターサービスなど産業チェーンの複数のプロセスにおけるデジタル化応用を実現したことだ。

 3つ目の共通点は、DXへの投資に力が注がれていることだ。白書「ライトハウス工場が製造業のDXをリードする」によると、スマート工場の建設投資の規模は1億元(1元は約19.3円)から5億元までというところが45%を占めた。

 4つ目の共通点は、成功した経験を大規模に「複製」するのが得意ということだ。美的やユニリーバなどのグループでは、複数のサブ工場が次々に「ライトハウス工場」認証を取得したり、業界や分野の枠を超えてモデルを提供したりしている。例えば、ハイアールの「コスモプラット」が青島ビール工場のスマート化改造を指導したケース、工業富聯が中信戴卡秦皇島プロジェクトをサポートしたケースなどは、いずれもその成功事例だ。

 5つ目の共通点は、グリーン生産力の向上によって、二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトとカーボンニュートラルという「ダブルカーボン」モデルへと転換していることだ。2021年9月より、WEFは発表した「ライトハウス工場」の中からエネルギーの高効率利用とエコ環境の持続可能性を実現できる優れた手本となる企業をさらに選び、「持続可能なライトハウス工場」に認定している。

製造業の将来を模索

 製造業の変遷と将来については、「ライトハウス工場」の中からいくつかの答えを見いだすことができる。

 第一に、新世代情報技術と製造業の深いレベルでの融合だ。全国の工業企業における重要工程のデジタル制御化率は55.7%に達し、12年より31.1ポイント上昇した。デジタル化研究開発設計ツール普及率は75.1%に達し、同26.3ポイント上昇した。とりわけインダストリアル・インターネットが急速に発展し、産業の規模が1兆元の大台を突破した。

 第二に、エネルギーの利用効率と持続可能な発展のレベルの著しい上昇だ。グリーン・トランスフォーメーション(GX)を推進することは、製造業の競争力を高め、持続可能な開発を実現するために必ず通らなければならない道だ。ますます多くの製造業分野が、グリーン製造を発展の重要な方向性としている。

 第三に、サプライチェーンがより強靱に、より柔軟に、より強大になったことだ。A.P.モラー・マースク中国法人のイェンス・エスケルンド首席代表は、「従来の考え方では、サプライチェーンの時間の正確さに関心が集中していたが、ここ数年は真に強靱性を備え、より柔軟かつより強大なサプライチェーンをどうやって構築するかにますます関心が集まっている」としている。

 「ライトハウス工場」は中国製造業の将来のモデルであり、その経験は「複製」が可能で、それによって中小企業へのエンパワーメントを実現できる。中国で「ライトハウス工場」が増え続けていることは、中国の製造業が先端化、スマート化、グリーン化を加速させていることを生き生きと伝えていると同時に、中国経済の強靱さ、ポテンシャル、活力も体現している。